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米良美一さん・・・スランプからの復活 [声楽]

「天上の声」とたとえられた彼の声。

それが下って来なくなった時の苦悩ははかりしれません。

母親が土方のような仕事をしていたせいでいじめにもあった彼には、

「歌」によって周りを見返してやりたい、という気持ちがありました。

周囲からはいつまでも「もののけ姫」の歌のイメージで期待されてしまう。

声が出なくなった彼は「地に堕ちた天使」になっていました。

長いスランプから抜けることは到底不可能のように思われました。

そんな彼を支えたのは、苦悩の中で病弱な彼を育て上げた「母の姿」でした。

子供を不憫に思う母はある時、「一緒に死のう。」とまで思いつめます。

しかし、息子の「死にたくねぇ。」という言葉で思いとどまります。

彼の家は特別裕福な家ではなく、父も母も額に汗して働き、彼を音楽大学に入学させたのです。

スランプに陥った彼を支えたのは、丸山(美輪)明宏の「ヨイトマケの唄」であり、その歌詞そのものの母の姿でした。

そして再起した彼は「天上の声」ではなく、「地を這うような声」でその唄を歌います。

「どんなきれいな声よりも、母ちゃんの唄こそ世界一」という歌詞のように、歌う彼の表情はなりふり構わずヨイトマケの仕事をする母の表情そのものです。

ノスタルジア~ヨイトマケの唄

ノスタルジア~ヨイトマケの唄

  • アーティスト: 米良美一, 長谷綾子, ヴァイル, 山田武彦, フェルネ, ブレヒト, 塩入俊哉, 竹下欣伸, カワード, 谷川俊太郎, 武満徹
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2005/09/07
  • メディア: CD


今日夕方テレビで米良さんを見ました。
今までの彼の出演番組では拝見したことのない、彼の故郷(宮崎県西都市)・・・もののけ姫の森のような風景・・・、芸能人の親とは思えない朴訥とした雰囲気のご両親、そして、都会的とは思えないファッションの米良さんが母に語りかける時の口調の優しさ・・・。
そんなものに大変感動を覚えました。

私は「もののけ姫」の時から10年近く米良さんを見つめてきました。

どれほどのファンか、今までの記事をご覧になった方ならご存知のことでしょう。

リサイタルには4回行きました。

「マタイ受難曲」の時はライプチヒ、ゲヴァントハウス管弦楽団、聖トーマス教会合唱団との共演のソリスト・・・大変期待して行ってみたら、彼は不調で出られなくなっていました。

その頃からスランプは数年続いたと思います。

私は彼のCDは非常にマイナーなものまで持っています。

彼が歌うバッハなどの古楽ももちろん好きですが、彼の本領は日本歌曲にあると思っています。

ついニ三日前の記事でもご紹介したばかりです。

母の歌~日本歌曲集

母の歌~日本歌曲集

  • アーティスト: 米良美一, 内山夏子, 江間章子, 團伊玖磨, 板谷節子, 橋本国彦, 鹿島鳴秋, 弘田龍太郎, 北原白秋, 梁田貞, 三井ふたばこ
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 1996/09/21
  • メディア: CD


この道/日本歌曲集

この道/日本歌曲集

  • アーティスト: 米良美一, 内山夏子, 北原白秋, 山田耕筰, 林古渓, 成田為三, 西沢爽, 中田喜直, 山村暮鳥, 谷川俊太郎, 團伊玖磨
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 1998/09/23
  • メディア: CD


彼は「日本人」であることをとても大切にしています。
留学時代も自分が幼い時から親しんできた「民謡」や「詩吟」を紹介し、山田耕筰などの日本歌曲を「宝物」として大切にしていました。

そういった彼の姿勢が、単にきれいな声で歌う、というのではなく、「語感」から情感を感じ取ることが出来るような歌い方に現れているように思います。

彼の歌い方は人を「詩」に向かわせます。

おととしの晩秋、近くで開かれた彼のリサイタルで、私はお手紙を渡しました。

私の彼に対する思いを綴りましたが、「調子の良いときも、悪い時もファンです。」と書きました。

調子が悪かった時も、私は彼の歌に対する気持ちに対する信頼から、彼を忘れることは出来ませんでした。

それに、彼の日本歌曲を聴いたら、他のどんな上手な歌い手の歌も心に響いてこない、と感じました。

「ヨイトマケの唄」をリサイタルのアンコールで聴いたときは、涙が出ました。

本当に彼の復活がうれしい・・・!!

ここまで復活された米良さんは、きっとこれから驕ることなく歌の道を進まれることでしょう。

彼を信じて本当によかった・・・と心から感じています。


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euridice

>彼の本領は日本歌曲にある
同感です^^!
by euridice (2006-03-20 06:59) 

Cecilia

euridiceさん、nice&コメント&トラックバックありがとうございます!
euridiceさんのその記事は以前にも拝見させていただきましたね。
彼の日本歌曲が大好きですが、でも、米良さんの「ポッペア」・・・聴きたい(観たい)のです!
大変小さい方で、ルックスでも損をしていると感じます。
euridiceさんに米良さんの良さについて共感していただけて光栄です!!
by Cecilia (2006-03-20 08:58) 

ピアノフォルテ

去年、Ceciliaさんの記事からちょっと興味が湧いて、米良さんを拝見しに行ったときを思い出しました。
ほんとにあの歌を目の前で聴かせていただき不覚にも涙が出ましたね。いろんなご苦労をされているのですね。これからのご活躍を祈ります!
by ピアノフォルテ (2006-03-20 10:31) 

Cecilia

ピアノフォルテさん、コメントありがとうございます!
音楽には本当に人間性が出てしまうと思います。
批評家や世間がどう言ったとしても、私は自分の耳で実際に聴いた感動を大切にしたいですし、だめになったからと見捨てたくないです。
私の記事で行ってくださったなんて本当に感激です。
これからも米良さんの良さを皆さんに知っていただけるようがんばります!!
by Cecilia (2006-03-20 17:33) 

Kazoo

Ceciliaさん、こんばんは。
私のブログへいらしてくださり、ありがとうございました。
どこにコメントを入れようか悩んだ末、ここに書かせていただきます。

米良さんのコンサートには残念ながらまだ足を運んだことはないのですが、テレビなどで彼のことが取り上げられるとだいたい観ています。
この番組も、見ました。

「もののけ姫」で一躍有名になり、それで私も初めて彼のことを知ったわけですが、米良さんが大学の時に師事されていた先生と知り合いだったり、コンサートで彼の伴奏を弾いているピアニストに、以前よく伴奏していただいていたことがあったりして、そんなことからも彼を身近に感じています。

彼の生い立ちがあのようなものだったことは、想像だにしていませんでした。
でも、だからこそ、あの優しさの溢れる歌が歌えるんだと思います。

今度、機会があったら、ぜひ彼のコンサートへ足を運んでみたいと思っています。
by Kazoo (2006-03-28 23:09) 

Cecilia

Kazooさん、nice&コメントありがとうございます!
あれから「シンデレラ」の記事を拝見したのですが・・・もしやみどさんのお友達ですか?(ブログでの交流はなさそうですが、みどさんは「シンデレラ」で精霊の役をされていたそうです。)

Kazooさんは、もしや、米良さんと同じ大学・・・?
伴奏者は北原さんでしょうか?
(CDでは内山さんが多く、リサイタルでは北原さんが多いですね。)

あの番組で、私がはじめて米良さんを見た「題名のない音楽会」での映像が出てきましたが、やはりあの頃のほうが楽な感じで高音を出しているように感じます。おととしの秋に間近で拝見しましたが、全身をつかっているなあ、と感じました。(調子は良くなられていましたが。)
米良さんのスランプはファンとして悲しかったし、復活は本当にうれしいです!!
是非、コンサートに行ってくださいね!!
私は大学卒業した後、しばらくしてから音楽専門学校に行きました。
しがない主婦ですが、細々と声楽を続けています。
これからもよろしくお願いいたします。
by Cecilia (2006-03-28 23:40) 

Kazoo

おはようございます。
私のブログをRSS登録したくださったようで、嬉しいです。
私も登録させていただきました。

さて、私は音楽大学は出ていないので、米良さんとは同じ大学ではありません。
ただ、私の所属しているオペラ団体が、あそこの関係者が多いこともあり、そこで先生とは知り合いました。
伴奏者はおっしゃるとおり、北原さんです。
最近は彼女に伴奏していただく機会もあまりありませんが、彼女の音、好きなんですよね。

みどさんとおっしゃる方も「シンデレラ」に精霊役で出演されていたんですね!
私の友人は別人ですが、これをきっかけに、みどさんのところにも遊びに行かせてもらおうと思います。

これからも、よろしくお願いします。
by Kazoo (2006-03-29 10:34) 

Cecilia

Kazooさん、ありがとうございます!
みどさんとも交流できたようで、うれしいです。
これからもよろしくお願いいたします。
音大のご出身でない、ということは、普通の大学だったのですか?(音楽科でなく・・・)
私も北原さんの音、好きです。
by Cecilia (2006-03-29 21:39) 

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