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「コタンの口笛」・・・主に音楽面とキリスト教的視点 [読書]

石森延男の「コタンの口笛」をよく読んでいます。
アイヌであるがゆえの苦悩を背負った姉と弟が健気に生きていく姿に感動するということはもちろんなのですが、石森延男の音楽の趣味とかキリスト教への傾倒みたいなものが垣間見られるというのが私が興味を持って読んでいる部分です。
実は先ほどこの作品に登場する音楽を書き出していてかなり進んだところで台無しにしてしまったのですが、かなりたくさんの曲名が登場します。それは主に西洋音楽ですがアイヌの歌や楽器も登場します。また音楽だけでなく美術や文学に関する記述も多く、全体を通して石森延男の芸術論・宗教観がかなり出ていると感じます。
この作品の中の中学生(昭和20年代後半から30年代前半くらい)は現代の中学生と違い大変大人のように思えます。はっきり言って大学生レベルで、しかもかなり知的な感じです。当時の中学生は現代の中学生よりも大人だったとは思いますが、ショパンのピアノ奏鳴曲(ソナタ)に関して薀蓄を語る中学生はいなかったと思います。(笑)しかもこれ、地方の公立中学です。
音楽の先生の授業もすごいです。必ず自分のピアノ演奏を生徒たちに聴かせ、音楽の形式について詳しく解説しています。
マサにとって(美術もそうなのですが)音楽は心の糧であって、合唱によって仲間と心を通わせる部分は大変楽しそうに美しい場面として描かれています。
父親が亡くなりマサが引き取られた家はクリスチャンの一家なのですがクリスマスの日に小学生の女の子(ユリ子)が歌っている歌からも作者がかなり讃美歌に詳しいということがよくわかります。
ユリ子は「まぶねのかたえに」を歌っています。原曲はこの曲です。

ユリ子はおばあさんからオルガンを習っていてバッハの前奏曲(どの曲かまではわかりません。)を弾きます。
また私が以前このブログで取り上げた「四葉のクローバー」という歌が取り上げられているというのも興味深い点ですね。この曲も宗教曲ではないですが「信仰・希望・愛」が入っていてキリスト教的な歌詞であると思っています。

子供の頃私はこの作品をほとんど読んでいませんでした。(今手元にあるのは実家にあった本なのです。)最初のあたりでいかにも優等生的な姉のマサにあまり感情移入できなかったというのもあるかもしれません。
でも今読んでみると優等生マサが尊敬していた美術教師谷口と音楽教師三井の結婚を知ったあとの描写が人間臭さが感じられて共感できますね。マサはこの二人の教師から芸術面でたくさん影響を受けていて、二人を尊敬しています。特に谷口に対しては恋愛感情にも近い思慕を抱いています。(まあ恋愛感情と言って良いでしょう。)二人はそれぞれ別の時期に退職したのですが、同じ封筒にそれぞれの手紙を入れ結婚の報告をします。マサは言いようのない思いにとらわれ、上で書いたユリ子(育ちが良いため気立てが良い。可愛らしい。)に対しても妬ましさを感じ意地悪な行為をしようかとさえ思うのです。そのあと吹雪の中に飛び出したために大変なことになるのですが、この部分は三浦綾子の「氷点」を彷彿させる感じがします。
つまり何の罪もなく健気に生きているように見える人であっても「誰でも心の中には闇が存在する。」ということへの気づきがあるという点です。マサもこの事件で自分の心の闇に気づきますが、このあと自分を苦しめてきたクラスメイトとの和解があったりします。
このような話の展開からもこの作品は非常にキリスト教的であると感じられます。
登場人物にクリスチャンが多いとか讃美歌が多く登場するということからもわかるのですが。
マサもユタカ(弟)もクリスチャンになるわけではないのですが、石森延男がそうであるようにキリスト教に傾倒しているところが見られますね。


コタンの口笛 第1部 上 あらしの歌 (偕成社文庫 4017)

コタンの口笛 第1部 上 あらしの歌 (偕成社文庫 4017)

  • 作者: 石森 延男
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1976/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



コタンの口笛(第一部・下) (偕成社文庫4018)

コタンの口笛(第一部・下) (偕成社文庫4018)

  • 作者: 石森 延男
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1976/12/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



コタンの口笛 第2部上 (3)―光の歌 (偕成社文庫 4019)

コタンの口笛 第2部上 (3)―光の歌 (偕成社文庫 4019)

  • 作者: 石森 延男
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1976/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



コタンの口笛 第2部下 (4)―光の歌 (偕成社文庫 4020)

コタンの口笛 第2部下 (4)―光の歌 (偕成社文庫 4020)

  • 作者: 石森 延男
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1976/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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コメント 4

Enrique

>この作品の頃の中学生は現代の中学生と違い〜
現在では中学の復習が必要な大学生もいると聞きますので,その通りだと思いますね。中学卒業で社会に出る人も多かったでしょうから,そうすると最終学校ですから,気合も違うでしょうね。
ソナタ形式などについては,私の中学時代(昭和40年代)でも音楽の授業でやりましたね。私たちのころでも教わる内容は簡単化したと言われていましたが。
わからないから簡単な内容を,というのをやって行くときりが無くなるのですね。分かっても分からなくても難しい内容も教えるべきと思います。アメリカ滞在中幼稚園だった息子の先生は,幼稚園児たちに世界の5大陸と7つの海のこととか,肌の色や人種は違ってもハートは同じだとか一生懸命教えていて,びっくりしました。私は感動し,息子は言葉も分からずにぽかんとしていましたが。
by Enrique (2012-11-13 18:56) 

伊閣蝶

昔は、高等小学校の卒業の際の答辞でも、きちんとした文語文で書いていたという話を聞き、実際、私の伯父(高等小学校卒)の答辞を読んで驚愕したことを思い出します。
みんながみんなそうだったということではないのでしょうが、家庭の事情で高等教育を受けることができなかった人も結構いたのでしょう。
今の時代は、半数以上が大学に行くことが出来、その意味では大変に恵まれていると思います。
そうした環境の整備自体は喜ばしいことですね。
「コタンの口笛」、私は成瀬巳喜男監督の映画しか知りませんでした。
Ceciliaさんの記事を拝見し、やはり原作を読みたくなりました。
せっかくなので読んでみようと思っています。
私はキリスト者ではありませんが、イエスの生き方や思想には大変共鳴する部分が多く、聖書は私にとって正に「バイブル」です。
by 伊閣蝶 (2012-11-14 00:25) 

Cecilia

Enriqueさん、nice&コメントありがとうございます!
作者が教育者だったということも作品の中に登場する教師像や授業の様子に反映されていると思います。
研究発表の場面なども出てきますがなかなか高度な授業だと思います。
実際の学校ではなかなか難しいこともあったかもしれません。作者の理想とする教育の姿かもしれませんね。
ソナタ形式は私も学校で学びました。テストにも出ましたし。
ピアノレッスンでは形式云々の話はほとんどなかったのですが(私の受けたレッスンでは楽典に関することをあまりしなかったのだと思います。)、学校の授業では往々にして音楽の面白さよりも形式の話が先になってしまう傾向があり、そうだと面白くないですね。この「コタンの口笛」の中ではスケルツォとかトリオ、ソナタなどの形式について先生が実際にピアノを弾きながら解説していて、楽しそうです。
私は子供の頃は今よりも読書家でしたが、今思えば意味も分からず背伸びして読んでいた本が多かったです。でもそれでよかったのだと思っています。わからないなりに受け止めるものがあり、それは頭や心の中に種として残っています。しばらくの間眠っていたとしてもある時目覚めていくのだと思っています。学校の授業もそうですよね。息子さんが受けた教育も素晴らしいですね。
by Cecilia (2012-11-14 08:38) 

Cecilia

伊閣蝶さん、nice&コメントありがとうございます!
文語と言えば思い出すのは尋常小学校では6年生で習ったという「児島高徳」という唱歌です。
http://www.youtube.com/watch?v=kkY40y2j-tU&feature=player_embedded
解説はこちらです。
http://www.geocities.jp/sybrma/191kojimatakanori.syouka.html
こんなに難しい曲を歌っていたのですね。
おそらく80代以上の方なら確実に歌えるはずです。
こういう歌を知るにつけ、高等教育を受ける機会のない人が多かった時代と今の落差を感じます。
今は入る気持ちとお金さえあれば誰でも大学(あるいは専門学校)に行ける時代で、入試制度も私たちの頃とはかなり違います。先日下の娘の受験が終わりましたが、楽でいいなあと思いました。もちろん学校に入ってからが大変であることは上の娘を見ていてわかっていることなのですが。(同じ学校・同じ学科です。)
「コタンの口笛」の映画を見ていませんが伊福部昭の音楽だということで気になっています。でも映画では小説のほんの一部しか表現できないはずです。伊閣蝶さんには是非読んでいただきたい原作です。
by Cecilia (2012-11-14 08:55) 

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